年末からしばらくTwitterを開かずにいたが、久しぶりに開くと「人工壁のグレード甘過ぎ/辛過ぎ」問題が話題になっていた
当然Jはノーコメントである
おそらく何を言っても説得力はないだろう
日本のクライミング界の常識を知らずに育ったのだから
6年間の京大ウォール教育を経て世に出た自分は、さながら異国の義務教育を受けてから日本社会に入ってきたようなものである
甘い/辛いのメリットやデメリットについても特にない
もはや自分の中に換算式を用意している。130度を基点とし、傾斜が20度寝る毎に1グレードズレていく。スラブは表記の難易度より約2.5グレード跳ね上がる。
ただこの議論に関して、自分を傍観者の立ち位置に追いやった決定打ともいえるエピソードがあるので、その話だけしたい
ルートセットを受け出した頃、あるジムからオファーをいただいた
非常にありがたい話だ。実績も何もない自分を呼んでくれるなんて
しかし自分はジムスタッフの経験もなければ面壁まぶし壁でクライミングを続けてきたので、ラインセットにまだ慣れていなかった
それでもいただいた仕事だから、精一杯のセットをしようと決めていた。嘘じゃない
しかし意気込みだけあっても、仕事は上手くいかないものである。
早速、ホールドが綺麗さっぱり外された140壁の前に立つが、どんな課題を作ればいいのかイマイチ分からない
まずは出来ることをしようと、自分らしさのある課題を作った
第二関節までかかるガバカチを繋ぎ、シンプルながらも単調になり過ぎないように意識した課題だった
普通、セットの際に最初はボリュームのあるホールドを使う
ツボに石と砂利と砂を入れるならば、石からだ。そしてどんなに詰め込まれてるように見えても、コーヒー2杯を注ぐくらいの余裕は常にある。
そんな人生のメタファーにでも使われていそうな話はセットにも通じる。しかし当時はそんなセオリーさえも分かってなかった
それくらいにシンプルなルートを引いたことを覚えている
要求されたグレードは2級だった。VグレードならV4。そしてここは、どちらかといえば辛い部類に入るジムだった。
もちろん京大ウォールが当てにならないことくらいはわかっていた。頭の中から必死にヒントになりそうなものを探す。
京都クラックスはどうだろう。当時のクラックスのグレードに抱いていた感覚は次のようなものだ
V4 : 負荷は感じるがほぼ確実に登れる
V5 : 本気トライで登れるが確実ではない
V6 : 打ち込んでどうにか登れる
V7 : 一本でも登れれば満足
V8 : オブジェ
辛めの2級と言えば、このV4くらいの負荷でいいのかもしれない。
スタートからムーヴを確認してみる。ヨレてなければまず落ちない。このくらいでいいのかもしれないが、得意系ということもあるから、少し辛いかもしれない。
ひとまずこれでチーフセッターに報告してみよう。1人で悩んでいても碌な答えが出ないことくらいは拙い社会人経験からでも学んでいた。
そしてチーフが壁の前に来てルートに一瞥をくれる。
すぐさま怪訝な表情を浮かべる。
「しまった」と思った
それでも鈍感なJは「少し辛かったか」とばかり思っていた。呑気なものだ。
人のいいチーフは何かを訝しんだままシューズを履き、1トライしてくれた
そしてルートの半分にも満たないところでトライをやめ、降りてきて彼は言った
「Jさん、これ辛すぎますよ」
少しなんてもんじゃなかったらしい
自分の想像していたグレード感とはまだまだ乖離があったらしい。自身の直感を疑ってまで1トライしてくれたチーフには申し訳なかった
どう修正しようかと悩んだところ、チーフがこんな提案をしてくれた
「垂壁に二級が一本あるので、試しに登ってみてください」
ありがたい。こういったことは体感するのが何より早い。
シューズとチョークを持って垂壁へと向かう。
教えてもらったルートを見る。
今度はJが怪訝な表情を浮かべる番だった
ホールドを見落としてるのだろうか。そんなはずはない。セットは始まったばかりだ。
色を聞き違えた?いや、それもないだろう。
実は見た目以上にかかりがいいのだろうか。
とにかく、登ってみれば分かる。
気合いを入れ直し、スタンダードな2級に取り付く
敗退した
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